梅雨明けまでもうしばらく。今年の夏こそ冒険、ボランティア、観光、ホームスティ等で海外へ出かけようと、プランを練っている皆さんが多いのではないでしょうか。過日、インドから帰国した学生が、診療受診のため保健センターに来ました。診ると両下肢を虫に刺されそれが化膿し一部潰瘍化したりしていましたが、幸い皮膚症状だけだったので患部消毒と内服薬投与で改善しました。感染症でなかったのでホッとしました。 そこで今回は、海外渡航にあたっての注意事項や携帯薬品などについてお話します。

海外渡航と予防接種
  • 自分自身を感染症から守り、周囲への二次感染を防止するため、事前に渡航先の感染症情報を収集し、それぞれの予防接種について理解した上でどれが必要か渡航者が決めなければなりません。
  • 特定の国(熱帯地域であるアフリカや南アメリカなど)では、黄熱ワクチンの接種済証明書を提示しないと入国出来なかったり、黄熱の流行国からインドや東南アジアへ入国する際も黄熱ワクチンの接種済証明書を請求されたり、帰国時の乗り換えの時必要になる場合があります。また、長期滞在や留学の条件として、各種予防接種済証明書の提出が求められる事もあります。詳しくは、渡航先の在日大使館や入学先へ問い合わせてください。
  • ワクチンのなかには1回で済むものもあれば、数回接種のものもありますので海外渡航を計画した時点で、予防接種をする医療機関や検疫所で相談して下さい。
携帯医薬品
(1)海外では先進国でも言葉や制度の問題でなかなか思った薬が手に入り難く、また、その他の国では、薬局や病院が日本のように整っておらず、日本でいるように簡単に薬が入手できないことを覚悟しておくべきです。

(2)従って、渡航先の事情をよく調べ、自分の常備薬なども考えてあらかじめ日本で備えて持っていったほうが良いです。現地に行ったら携帯する医薬品は、緊急時に用いる一つの手段と考えて、「これは危ない」と思ったら、先ず、最初に現地の信頼のおける病院、または医師の診察を受けましょう。

(3)旅行先別の携帯薬品について

A.都市部・一般観光地・リゾート地で感染症が少ない地域の場合
[対象地域:欧州・北米・オセアニアなど]
風邪薬:総合感冒薬、解熱鎮痛剤
胃腸薬:一般胃腸薬、整腸剤
その他:酔い止め、カットバン

B.都市部・一般観光地・リゾート地で感染症がある地域の場合
[対象地域:アジア、中近東、アフリカの一部(エジプト・ナイロビ・南アフリカ・モロッコ)南米の一部(アルゼンチン)など]

風邪薬:総合感冒薬、解熱鎮痛剤
胃腸薬:一般胃腸薬、整腸剤、下痢止め、便秘薬
その他:酔い止め、カットバン、痒み止め、消毒液、イソジン、防虫スプレー、蚊取線香

C.感染症が多い地域の場合
[対象地域:アフリカ全域、中南米など]
風邪薬:総合感冒薬、解熱鎮痛剤
胃腸薬:一般胃腸薬、整腸剤、下痢止め、便秘薬
マラリア予防薬:クロロキン、メフロキン(現地で購入しなければならない。帰国後6週間は飲む必要があることを忘れずに)。服用については副作用に注意。 その他:酔い止め、痒み止め、消毒液、イソジン、カットバンや絆創膏、防虫スプレー、蚊取線香、伸縮包帯、滅菌ガーゼ、脱脂綿、体温計、はさみ、ピンセット、毛抜き

D.感染症が蔓延している地域(冒険旅行/未開地踏破型)の場合
[対象地域:アジア(山間部、森林地帯)、アフリカ全域、南米(山間部、森林地帯)など]
風邪薬:総合感冒薬、解熱鎮痛剤
胃腸薬:一般胃腸薬、整腸剤、下痢止め、便秘薬
マラリア予防薬:クロロキン、メフロキン(現地で購入しなければならない。帰国後6週間は飲む必要があることを忘れずに)。服用については副作用に注意。 その他:酔い止め、痒み止め、消毒液、イソジン、カットバンや絆創膏、防虫スプレー、蚊取線香、伸縮包帯、湿布薬、目薬、滅菌ガーゼ、脱脂綿、体温計、はさみ、ピンセット、毛抜き 毒蛇咬症用救急セット(入手可能なら持参することをお勧めします−アウトドアグッズの店に置いてある場合がある)
海外では水に注意を
日本の水はほとんど軟水です。海外では、硬水が多く不慣れな人が飲用すると下痢を起こすことがあります。硬水には、カルシウムやマグネシウムなどを多く含み、煮沸することで硬度を下げることができます。また、発展途上国では、上水道の不備、不完全な下水処理などで水道が汚染されている場合があるので油断できません

飲料水の簡単な消毒法

(1)煮沸する
方法 使用器具・薬品など 備考および注意
煮沸 煮沸10分冷ましてから飲む 小型の電気湯沸し器(使用電圧やプラグの違いに注意)・やかん・鍋など用いて煮沸する 殺菌と硬度を下げる効果がある。(但しアメーバ赤痢などは殺菌不能)
(2)煮沸する用具もなく安全な水が手に入らない場合の消毒法
薬 品 透明な水
(1リットル当り)
備濁った水
(1リットル当り)
商 品 例 薬液滴下30分後塩素の匂い又はヨードの味がしていれば殺菌OK。(但しアメーバ赤痢などは殺菌不能)
使用時の注意書を参照のこと
1%の塩素剤 10滴(コップ一杯に1滴) 20滴(コップ一杯に3滴程10分おいて飲む) 日本では ミルトン、ピュア等
4〜6%の塩素剤 2滴 4滴 現地で購入。クローラックス等
3%の希ヨードチンキ 3滴 6〜7滴 一般の外傷用の消毒液で代用可
(3)下痢をした時の水分補給

下痢が激しい場合は、脱水により生命に危険がおよびます。こんな時には水やお湯を飲んでも吸収されず、脱水の改善になりません。経口補液を現地薬局などで求め飲むのが有効です。また日本でも市販されているスポーツ飲料をのむのも良いです。どちらも手に入らない場合は、次の代用経口補液をつくって飲むのも有効です。

代用経口補液

1.食塩スプーンすりきり1杯
2.砂糖スプーンすりきり8杯
1と2を水1000mlの中に入れる
旅行者下痢症とは
海外旅行に行った人の半数以上の人が旅先へ到着後5日以内に下痢をするといわれています。原因は大きく分けて
@旅行の準備など、疲労による体調の変化
A旅行中の不安やストレスなどからくる精神的な胃腸障害
B渡航先との水質の違い(硬水)や飲食物の違いによる一過性の胃腸障害
Cウイルスや細菌、寄生虫による病的なもの
などが考えられます。

旅行中は、時差やハードスケジュール、環境の変化によるストレスなどで体の抵抗力が弱まり、通常なら問題にならない量の病原体で病気になることがあります。 軽い下痢は、1〜2日様子を見れば、大体治まります。しかし、激しい下痢、頻回の下痢、血液が多量に混じっている下痢の場合には、軽く見ないですみやかに医師と相談して下さい。

どうぞ健やかで楽しい旅でありますように、祈っています。

渡航の際の詳しい問合せ先
厚生労働省成田空港検疫所
TEL:(0476)34-2310
FAX:(0476)34-2314
E-MAIL http://www.forth.go.jp
海外旅行健康相談・予防接種(0476)34-2300


(注)以上は、(厚生労働省成田空港検疫所)「海外保険医療情報」を参考にしました。